過去の刺鍼班と現在の刺鍼班7〜メソッドFとメソッドY、それぞれの生理作用

  • 2015.04.14 Tuesday
  • 16:00

 ※本連載は筆者Hiro.Simizの個人的な思考実験です。各関係者の実際の思いとは異なる場合があります。

 前回はメソッドFとメソッドYの手技の違いを各段階で比較しました。今回はそれぞれの出す効果の意味を考えてみたいと思います。と言いましても、それぞれの効果を論理的・科学的に検証できるはずもないため、東洋医学的解釈からの推測に留まるのですが…。

 脉が引き絞られるように硬くなっている場合には、補法が成功すれば柔らかくなり、それに伴って脉幅も出ると思われますが、メソッドFでは、その手技において「術者の気を入れよう」あるいは「術者の気で患者の気を動かそう」と図ることで五臓の働きを増し、それによって脉外に停溜した水滞や血滞を脉中に戻すことができ、さらに大きく脉幅を増す(ドカン!)のではないかと推測しました。具体的には、各蔵の機能は以下のような作用によるかと思われます。
 腎は身体中の余分な水を腎の周辺に集めて貯蔵し、津液を必要とする脾胃や他の蔵府に受け渡し、脾胃の働きが気血津液を増やすことに貢献します。肝は身体中から集められた血を、肝気の疏泄作用により肝経→中焦→肺経と循らせます。脾は腎から供出された水を胃という鍋に貯め、水穀を腐熟して気血津液をつくり、それを各部位へ運化しています。肺は衛気と津液を上焦から散布し、衛気の流れが脉中の血を推動します。
 各証において適切な補法(※メソッドF)が行われれば、これらの臓器の働きが高められ、それにより身体各部において血滞・水滞が除かれ、その結果として血量が増して脉幅が太くなると考えられます。

 なお、現在の関西支部の各証における選穴では、肝虚証では水穴、腎虚証では金穴か水穴、脾虚証・肺虚証では土穴か金穴がスタンダードとなっています。これは難経69難に則った取穴という理由以外では、池田太喜男先生が多用されていた選穴だと思われます。その選穴の意味は、気血水を大きく動かせるためではないかと考えられます。

 それでは、脉幅をあまり大きく広げず硬軟の度合いも適切なものにすると考えられるメソッドYでは、どのような生理作用が働くと考えれば良いのでしょうか。

 ここから少し突っ込んだ蔵象論(五臓六腑の生理)の話になります。腎には親から受け継いだ「先天の気」が備わっているとされます。先天の気は人が生きていく上で消費し尽くすわけにいかないため、脾胃でつくられる気血津液が「後天の気」となって常にこれに補われます。これをもう少し詳しく述べると以下のようになります。腎には陰気の元としての「腎精」があり、また陽気としての「命門火」=「三焦の原気」が存在しています。そして、水穀から脾胃でつくられた津液が常に腎の陰気として腎精に追加され、血の中の津液が少なくなって心が熱くなりすぎた場合や、外邪や内熱などの理由で他の臓器が熱せられた場合にも、津液を心・肝・脾胃に多めに送ることで血の量を増やしてクールダウンを図るわけです。また脾胃でつくられた後天の気の一部は心包の相火を介して下焦まで降り、腎の陽気(命門火)となり、身体中から冷えた津液を腎に集めるための熱源・動力源としての三焦の原気にもなると思われます。このように腎陰が心陽を抑制し、心陽(相火)が腎陰を制御するような関係は心腎相交と呼ばれます。またこの三焦の原気は、胃から宗気、小腸から栄気、大腸から衛気、つまり各種の後天の陽気を蒸し出す際の熱源ともなります。

 メソッドYの場合は、メソッドFのように五臓に直接働きかけることで血や津液を動かして血量を増やしたり脉幅を拡げたりするよりも、むしろ三焦の原気の方に働きかけ、生み出された陽気により巡り巡って五臓六腑の働きを増し、後々その結果として血量増大や脉幅拡大といった変化に行き着くと考えられます。つまり、このメソッドは患者の現在ただ今の身体状況に見合った適正な蔵府の働きを促し、脉もそれに応じたものとなり、そのため虚体患者や虚の病態の患者においても、身体や脉に負担をかけることなく治病効果が出せるのだと推測されます。
 このように考えてくると、持続的に生命力を高めるという大目的に合致するのは、メソッドYの方に分があると考えられます。しかしまた、動きにくい器質性疾患や緊急に大きく脉を動かさねばならない急性症状の場合にはメソッドFに分がありそうです。すなわち、旧刺鍼班の扱ったメソッドFは器質性疾患(血の変化)の早期治癒および急性症状の緩和、新刺鍼班の扱うメソッドYは慢性的な機能性疾患(気の変化)の持続的な治癒を得意とするわけです。ゆえに、これら両方のメソッドをマスターしておき、必要に応じて使い分けるのが本物の上工だと言えそうです。

 さて、これまでの本連載では、何度か人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」で例えてきましたので、最後もそれを踏襲しましょう。患者の脉幅を大きくして滞留した気血水を流すメソッドFは、吸血鬼だけでなく生命体にもダメージを与えてしまう、いわば「弾く波紋」です。患者の三焦(丹田)に種火を点けて五臓を働かせながら負担をかけない程度の脉を持続させるメソッドYは、生命体に与える影響を極小にし、水や油を固めたり吸い付いたりする「くっつく波紋」です。後にジョセフ・ジョースターの妻となるスージーQに取りついた柱の男・エシディシの脳髄を引き剥がすため、ジョセフが弾く波紋をスージーの全身に、相棒のシーザーがくっつく波紋を心臓部に流してプラスマイナス・ゼロにしたシーンをご記憶の方もおられるでしょう。

 東京本部の相克調整における本証と副証においては、より虚性の強い側(本証)の二経にメソッドY、虚性のそれほど強くない相克側(副証)の経にメソッドFを行えば負担が少ないと思われます。さらに、相克経が実証であるなら瀉法を施すということになるでしょう。

 研究部刺鍼班では、メソッドFとメソッドYのどちらの研究も未だマスターレベルには遠く、我々の研究には全く果てが無いように思われます。刺鍼班の活動はこれからも続いていかねばならないと思うわけであります。
 以上長々とお付き合い頂きありがとうございました。  (了)     Hiro.Simiz

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